細部から生みだす空間の役割

山下工務店House Construction部(以下:YHC)の山下陽平が、森島モデルを設計したDESIGN O-TSU大峯竣平さんと「設計」についてお話しします。
前回のお話は「第2話 家の顔を考える」からお読みいただけます。


山下:大峯さんのプランと言えば、やはり1階と2階がシームレスにつながる吹き抜けが特徴的です。

吹き抜け:1階の天井と、2階の床を設けずに、上下の階がつながっている空間。

大峯:やっぱり気持ちの良い空間を作るためにも、吹き抜けは大切に考えました。森島モデルでは4畳半サイズの吹き抜けとしたのですが、空間としての見た目も綺麗で、光の入り方が気持ち良いんですよね。また、家中に暖気を回したりなどできるので、吹き抜けは最高の住宅設備だと思っています。吹き抜けが嫌いという方もいると思うんですけど、森島モデルを見て良さを感じてもらえると嬉しいです。

山下:吹き抜けが嫌いな理由に「寒そう」というイメージが強いですよね。特にこっちの北陸ではなおさら。そのため、森島モデルでは断熱性と気密性はかなり高めに確保しました。断熱等級も6くらいあるので、エアコンだけで家中が暖かくなります。逆に吹き抜けがないと暖気が上手いこと行き届かないんですよね。デザインだけが先走るのではなく、機能性をしっかりと担保しました。

断熱等級:家の断熱性を示したランク。等級が高いほど外気からの影響を受けにくく、省エネで住みやすい住宅であることを示す。

大峯:2階には、吹き抜けに面した壁に大きな開口部があるのですが、そこも空気の循環に一役買っています。目の前には南面の大きな窓がくる高さなので、開口部に腰を掛けて外の景色や光も楽しむこともできます。デザインありきではなく、しっかりと機能性に基づいたデザインというのが一番の強みですよね。

山下:この前大峯さんと手掛けた住宅では、細長い吹き抜けも設計しましたね。吹き抜けというと開放感があるイメージですが、ああいった縦に細い吹き抜けでも光が間接的に落ちてくる視覚的な良さと、上下の暖気を効率よく入れ替える住み心地の良さが両立できた気がします。

天井から考える
プライベート空間

山下:森島モデルでは開放感がありながらも、2階はプライベート空間としての落ち着きもあります。

大峯:他の家と比べて特徴的なのは、天井の高さです。一般的に、ほぼ全てのハウスメーカーは天井高2,500mmに設定しているのですが、森島モデルでは1階は2,400mm、2階は2,200mmにしています。2階の低さは最初物議を醸したんですけど(笑)それでも低くするからこそ、寝室などの空間にプライベート感のある落ち着きをもたらすことができました。寝るときに天井が高くある必要もないですし、1階と比べてメリハリがついたと思います。

山下:ちょっとした屋根裏部屋にいるような感覚が心地良いですよね。この天井の低さは外観にも効いていると思っていて、家全体のシルエットが低重心な形となりました。ノッポな見た目より、家としての安心感が生まれた気がします。

大峯:細かい話なのですが、2階を2,200mmにした理由はもう一つあります。前回「窓は既製品を使う」という話がありましたが、各部屋の扉も同じく既製品を使う想定で天井高を決めていきました。森島モデルでは高さ2,030mmの扉を使っているのですが、一般的な2,500mmの天井高だと約500mmの下り壁が扉の上に生まれますよね。それだと少し間延びして不格好になってしまうんです。かといって天井高を2,100mmなどあまりに低くしすぎても、下り壁が100mmだけとなり、設計ミスのような違和感を持たれてしまう。その結果、扉との相性として一番美しいと感じられる天井高が今回の2,200mmだったんです。

下り壁:天井から下のほうへ下がっている壁のことで、開放空間をさりげなく仕切る機能を持つ。

山下:各部屋に同じ高さの下り壁をつけたことで、統一感が生まれましたね。また、この下り壁のおかげで空間としての区切りもつきました。森島モデルは開放的でありながらも、プライベートとしての空間がしっかりと共存しています。

大峯:逆に閉塞的になりやすい階段部分は、抜けの良さを意識しました。階段は普通、分厚い腰壁がつけられるのですが、その壁をすべてなくして手すりだけをつけています。そうすることで階段も第2の吹き抜けのような開放感を得られることができました。ただ登るだけではなく、気持ちの良いひとつの空間になったと思います。

焚火のような、
周りを照らす空間づくり

山下:森島モデルの照明に関してもお聞かせください。

大峯:今後の家づくりのベースとして見据えた上で、シンプルなスクエア型のガラスブラケット照明を各所に採用しました。本来はアクリルでも成り立つのですが、ガラスならではの重厚感や触り心地、光の拡散具合がアクリルとは違って良い雰囲気が出るんですよね。

ブラケット照明:壁面に取り付けられている壁付照明器具。

山下:ブラケット照明に比べ、ダウンライトは比較的少なめですよね。

ダウンライト:天井に埋め込んで設置する小型照明。            

大峯:もちろんダウンライトも採用はしているのですが、ダウンライトの光は天井から真下に落ちてくるため、少し単調な印象になります。学校とかによくある蛍光灯も同じですが、明るくするためだけの光というか。例えば、キャンプの焚火がなぜ落ち着くのかを考えてみると、やっぱり周りを照らしてくれるからだと思うんです。ランプなどもそうですが、テントの中枢から全体を照らしてくれる、あの光の放射が綺麗だなと思って。ダウンライトは明るくしすぎるという点でも、あまり多用はしていないです。

山下:日本の家の少し悪い癖じゃないですけど、部屋を均一に明るくしたがる傾向がありますよね。海外では必要なところに電気を持ってくるという発想あるので、結構陰影のメリハリがあって雰囲気が良いんです。森島モデルではその雰囲気をうまく表現できたのではないかなと思っています。

大峯:ダウンライトと違って、ブラケット照明は横から光が降ってくるんで、階段の手すりの影が良い感じに落ちたりと、良い演出が照明によって仕上がりました。山下 外観だけではなく、室内も森島モデルならではのアイデンティティが生まれたと思います。振り返ってみると、森島モデルはYHCの考え方が細部まで行き渡った家だなとあらためて感じました。

余白のある家づくり

大峯:YHCのベースとなるデザインコードも森島モデルから生まれましたよね。

山下:実際、お客さんからも「あそこにもYHCの家建っていませんか?」とお声がけを頂くようになりました。もちろん建てる家は施主さんによってそれぞれ違う持ち味があるんですけど、窓の配置や外観から、YHCとしての名刺代わりのような家が森島モデルでできたのではないかと思っています。

大峯:元々、森島モデルを作る前は「こういうデザインでやっていこう」というゴールがあった訳ではなく、陽平さんと一緒に作りながらデザインコードが決まっていったのを覚えています。その後、施主さんによっては森島モデルとは結構異なるオーダーを頂くことも多々あるんですが、YHCとして家づくりをする際は、建物としての気持ちの良い「抜け感」は担保してあげたい気持ちは強くあります。

山下:吹き抜けや窓といったデザイン的な抜け感も意識しつつ、空間としての「編集性」も大切にするようになりました。将来子供が生まれて家族が増えていくとか、施主さんの人生設計も加味しながら作っていく「余白づくり」も、今のYHCの軸となっている気がします。

大峯:軸ができたことで、その想いをベースにしながらも最近では色んな家のバリエーションが増えてきましたよね。良い意味で予想できない展開性も面白いなと思います。

山下:YHCの家は相場に比べるととても価格帯も安く、若いお客さんも増えていきました。価格に関しては色んな方から驚かれるんですが、やっぱり窓や扉を特注ではなく、すべて既製品にできたことが大きいと思います。床材も無垢材などではなく既製品を使ったのですが、全然安っぽい感じもせず、むしろ家全体の雰囲気を整えてくれましたね。

大峯:普段、既製品を選ぶ時ってカタログと睨めっこする時間がかなり多いのですが、今回はあまりしなかった覚えがあって。陽平さんの選ぶものがデザイン的にもばっちり合っていました。

山下:既製品は価格が抑えられるというメリットはもちろん、既製品は性能がしっかりしているものも多く、かつメンテナンスがしやすいのが良いですね。やっぱり人が住み、長く使うものですから。その分、数ある既製品から丁寧に選び抜く姿勢はいつも心がけています。

住む人それぞれが
自分なりに楽しむ家へ

山下:その後、実際に森島モデルはすぐにご購入されました。施主さんは自分なりに生活を楽しまれるご夫婦で、「余白」をうまく使いこなしてくれています。

大峯:第1話でもお話しましたが、まさに「自分で選択して、自分なりに楽しむ」。そんなお客さんに住んで頂けましたよね。

山下:思い描いていたイメージ通りの方に住んで頂けました。空いているスペースを楽しみながら自由に使って頂いる印象です。靴や車など、持っているものもすごくこだわりが感じられてセンスが良いんですよね。これからも、たくさんの方々の人生をおおらかに受け入れる、そんな家づくりを大峯さんとともに作っていきたいと思います。

大峯:YHCの考える新たな家の在り方を、これからも一緒に考えていきましょう。

山下:大峯さん、本日はどうもありがとうございました。

大峯:ありがとうございました。


大峯 竣平[デザイナー/二級建築士]

1990年石川県出身。金沢美術工芸大学 美術工芸学部環境デザイン専攻を卒業後、設計事務所や工務店(生物建築舎、株式会社済田工務店)勤務を経て、2018年より額村計画室、2020年にデザインオツへ改組。

家の顔を考える

山下工務店House Construction部(以下:YHC)の山下陽平が、森島モデルを設計したDESIGN O-TSU大峯竣平さんと「設計」についてお話しします。
前回のお話は「第1話 設計前の“目線づくり”」からお読みいただけます。


山下:森島モデルの顔ともなる「外観」について、あらためて設計したときのお考えを聞かせていただけますか?

大峯:いきなり個人的な好みの話で恐縮なんですが、民家でよく見る、錆びたトタンってあるじゃないですか。僕、あのノスタルジックな雰囲気がすごく大好きで。あの外観って、街の景色を情緒的に作り上げているひとつの要素だと思っているんです。そこで森島モデルでは、「古くからある家のノスタルジーを、現代的に新しい形で見せられないか」と考えたのが、そもそもの原点でした。そこから外壁を選定して、最終的に使用したのが、大きな波を打った「ガルバリウム鋼板(以下:ガルバリウム)」だったんです。

ガルバリウム鋼板:金属素材でありながら錆びにくい外壁材の一種。

山下:僕もガルバリウムはお気に入りの建材で、見た目だけではなく、耐久性も非常に高くてかなり愛用しています。森島モデルを皮切りに、お客さんにはいつも自信を持ってすすめていますね。

大峯:最近ではYHCの代名詞にもなってきましたよね。さっき僕が「錆びたトタンが好き」なんて言ってしまいましたが、ガルバリウムに関しては錆びている姿なんてほとんど見ない気がします。

山下:そうですね。僕の経験上、よく外壁に使われるサイディングであれば25年くらいの耐久性ですが、ガルバリウムは50年くらい平気で持つと思います。それに50年経っても、素地がやられているわけではなく、表面の色合いが褪せている程度の具合なんですよね。そんな優秀な素材を、大峯さんはデザイン的にうまく活用してくれたなと思いました。

サイディング:外壁に貼る仕上げ用の板材。樹脂系、金属系、木質系、窯業系など材質の豊富さが特徴。

大峯:デザイン的なことでいうと少し細かい話なんですが、外壁の角の仕上げもポイントでした。通常、外壁の4つの面をつなぎ合わせる際、それぞれの鋼板の角をL字の金物で繋ぎ留めるのが一般的なんですが、森島モデルでは一枚のガルバリウムを曲げて作っています。そうすることで角に継ぎ目のない、端正な印象を出すこともできました。

山下:ぱっと見たときに「なんか整っているな」と感じてもらうためにも、こういった細部の仕上げには大切ですね。“端正な印象”という点では、外壁カラーも後押ししてくれています。ダークカラーの住宅が増えつつある中で、森島モデルのような明るめの家がポンっと入るだけで、とても印象的になりました。

大峯:ダークカラーの外観も高級感が出て良いんですが、こういったカラーも軽やかで品がありますよね。それと北陸は曇天の日が多いこともあって、景色に馴染むという点でも、明るめのグレーを陽平さんと選んだ覚えがあります。山下 もちろんお客さんの好みはそれぞれなので、いろんなカラーを使いますが、街の景観を守る意味でもあまり派手なカラーを選ばないようにはしています。真っ赤な家とかは僕はちょっと提案できないです(笑)

ひとつひとつに理由を込めた、
リズミカルな窓の配置

山下:外観といえば、窓の配置も特徴的ですよね。

大峯:まず窓の種類ですが、陽平さんが普段から使われている断熱性能の高い既製品の窓を使用しました。でも正直な気持ちを言うと、その窓は性能が非常に優れている分、窓枠が太くて、外観的には結構ブサイクになっちゃうんですよ。なので、しっかりと使いこなせるか当時は不安でした。でも陽平さんがそれを選ぶと言うことは品質が高いということですので、「この窓をどうしたら美しく見える形にできるだろう」という姿勢で最初から臨みました。

山下:やっぱり工務店的には家としての機能は高く保ちたいという想いがあるので、大峯さんを悩ませてしまいましたが、結果としてデザイン的にもうまく活用してくれました。特に南面の大きな窓は印象的になりましたよね。

大峯:窓は家の顔を作る大きな要素なので、まずはリビングのある南面に大きな窓を配置しました。通常のセオリーで言うと、メインの空間には人が出入りできるような「掃き出し窓」をつけるのが一般的です。 掃き出し窓:窓の底辺部が床まである、引き戸式の大きな窓。         でもリビングの掃き出し窓って、大体カーテン閉めっぱなしで使えない窓になってしまっていることが多い。それはやっぱり家の顔としてすごくもったいないな、と。なので、室内の吹き抜け空間を利用して、家全体の中間の高さに大きな正方形のFIX窓をつけました。そうすることで外の歩行者から覗かれにくく、かつ室内からは景色や光を楽しめる。そして何より“家の顔”として象徴的な窓となりました。

FIX窓:窓枠に直接ガラスをはめこみ、開閉できないように固定された窓。

山下 いろんな住宅を見ていると、必要でないところにまで掃き出し窓や引き違い窓をつけている家って結構ありますよね。昔からの名残でなんとなく「ここには掃き出し窓をつけなきゃ」という考えが標準的になっている感じもあって。でも実際、機能性や値段の高さを考えると、掃き出し窓って良い選択ではないと僕は思います。そういった意味では、今回の森島モデルの窓は機能もデザインもしっかりと両立していて、かつリーズナブル。とても機能的なプランでした。

引き違い窓:左右二枚のガラス戸をスライドして開閉する窓。        

大峯:他の窓に関しても同様で、一つ一つに理由を持たせています。「ここには大きな窓をつけて、景色がしっかりと見られるようにしよう」、「ここには下から開閉できる滑り出し窓をつけて、雨の日でも開けられるようにしよう」、「プライベートな空間には小さな窓をつけて、カーテンがいらないように磨りガラスにしよう」とか。やっていることは普通なんですけどね。これまでの家の常識にとらわれない姿勢だったからこそ、結果としてすべて異なる高さに異なる大きさの窓が配置され、他ではあまり見ないアイデンティティが生まれました。

滑り出し窓:下部から外側に開いて風を取り入れられる窓。

山下:最近の家だと、人通りに面する窓はプライベートを考慮して小さな窓をちょこんとつけるやり方も多いですよね。または、大きな窓をつけるときは特注の窓をお金かけて作るとか。自分もどっちかになるのかなと思っていたんですが、その常識がガラリと変わりました。既製品の窓をリズミカルにつけて、光も入れながら家の顔を作り上げる。これまでのプランとは全く異なり、良い意味での違和感のある家になったと思います。

大峯:陽平さんのこだわりでもありますが、特注で窓を作って、家の金額が跳ね上がるようなことは避け、すべて機能性の高い既製品の窓でデザインすることは意識していました。結果としてあるべきとことに窓を配置し、光の差し込む抜けの良い空間を作ることができたので良かったと思います。

山下:室内の吹き抜けに、とても気持ち良い光が入るようになりましたね。それでは次回は、空間づくりや照明の考え方など「室内空間」についてお話できればと思います。

大峯:はい、よろしくお願いします。


大峯 竣平[デザイナー/二級建築士]

1990年石川県出身。金沢美術工芸大学 美術工芸学部環境デザイン専攻を卒業後、設計事務所や工務店(生物建築舎、株式会社済田工務店)勤務を経て、2018年より額村計画室、2020年にデザインオツへ改組。

設計前の目線づくり

山下工務店House Construction部の山下陽平が、森島モデルを設計したDESIGN O-TSU大峯竣平さんと「設計」についてお話しました。


山下:これまでも数々の家づくりをご一緒してきた設計士の大峯さんと、森島モデルについてお話できればと思います。

大峯:森島モデルは、(山下)陽平さんが僕に「とある団地の一角でモデルハウスを作りたい」と相談してくれたところから話は始まりましたね。

森島モデル:2020年、石川県白山市に建築されたモデルハウス。「街並みに調和しながら、新しいベーシックとなる家」というコンセプトのもと、シンプルな外観でありながら機能性に富んだ設計が特徴。住む人の趣味嗜好やライフステージに合わせて編集のしやすい余白のある空間が用意されている。

山下:当時は自分も「山下工務店House Construction部(以下:YHC)」を立ち上げたばかりで、部名もついていなかった頃だと思います。母体となる山下工務店で培ったノウハウを活かして、あたらしいコンセプトの家を作っていきたいと考えていて、その第一弾となった家が森島モデルでした。そのときタイミングよく大峯さんが独立したと噂を耳にして、「相談するなら今だ!」と。

大峯:はじめは、森島モデルを設計する前に「誰のための家を作るのだろう?」という目線づくりから話し合ったのをよく覚えています。万人に受ける家を作ろうとすると、やっぱりどこの工務店でも、ハウスメーカーでも家の印象が変わらなくなってくる。陽平さんと色々と話を進めていく内に、「自分の生活を、自分なりに工夫して楽しめる人」に向けて、家の在り方を考えたらどうだろうという方向性が見えてきて。例えば、無印良品を好きな人って、ただ安ければいいという考え方ではなく、買ったものをどのように自分の暮らしに活かしていくか、とても美意識の高い方が多いと思うんですよね。自分で選択して、自分なりに楽しむ。そんな人たちが気持ちよく過ごせる家ってなんだろう?と考えたのがスタート地点でした。

山下:最初は「美意識を持っている人に住んでほしい」という話だけ大峯さんにしたのですが、その辺の感覚はすでに大峯さんの中に元々あって。この考え方は、二人の中でわりとスムーズに決まりましたね。

大峯:山下工務店の地元である鶴来の街並みに調和しながら、新しいベーシックとなる家を生み出したかったのもあります。人と街、そして陽平さんの想いを意識しながら、どこを見られても恥ずかしくない家にしたいという気持ちは強くありました。あと意識したことは、陽平さんの人柄ですね。例えば、内見会とかモデルルームで、スーツ着た大きいおじさんが出てくると少し圧を感じるじゃないですか(笑)でも、陽平さんみたいな優しい人が出てきて案内することを考えたら、優しい空間、柔らかい空間というものが頭に浮かびました。

細々としたことより先に、
まずは「気持ちの良い家」を

大峯:設計プランを考えていくときに意識していたことは「特殊なことはしないけれども、よくあるものにもしない」ということでした。いろんなハウスメーカーさんを見ていると、はじめから細々としたプランや資料を渡されることがよくあります。でも、今回はそういった従来のやり方ではなく、多少細かいものを無視してでも、「気持ちの良い空間」を意識したプランを提示しました。たとえば、最初は広めの空間だけを用意しておく。人によっては収納が足りないのではないかなどと思われますが、収納家具を置く将来性まで考えた広さにしています。「こういう間取りだからこういう使い方しかできませんよ」といった制限を極力無くし、未来を見据えて展開性のある空間プランを目指しました。それと、やっぱりシンプルであるということは、その分お客さまも建築費を抑えられるということにもつながるので、そういうメリットも意識しながら、この森島モデルでやってみようということになりました。

山下:大峯さんのつくるプランは一貫して抜け感があって、広々とした玄関だな、気持ちの良いリビングだなというのがすぐにわかります。今でもそのおおらかなプランというのは、YHCの最大の売りとなっていますね。

大峯:例えば玄関前のポーチとか、普通だったら四畳半なんて広大なスペースを取らないんですけど、いつも通る場所に植物など育てられる広いスペースを用意してあげることで、庭の手入れを怠りがちな人も管理がしやすくて、何より毎日通っていて気持ちが良い。 ポーチ:玄関の前に設置された屋根付きのスペース。玄関ドアの開閉時に雨や雪、日差しを防ぐ役割を担う。また、人を迎え入れる場として美観要素における重要なスペースでもあり、植栽や装飾、照明によってその家の印象を可変的に形成することができる。 あと森島モデルのLDKはそこまで広いわけではないんですが、外にあるポーチの見え方や、二階への吹き抜け、他にもさまざま抜けを施したことで、小さな家でも工夫次第で開放感のある気持ちの良い空間を実現できました。山下工務店の緻密な仕事も効いています。ニッチな部分も手を抜かない丁寧な仕事ぶりが、見ている人にとっての「なんかいい」という良い違和感に繋がると思っていて。なにより、陽平さんの人柄もあって、気難しい職人さんでも陽平さんのためなら全力でやってくれるんですよね。設計したプランが、陽平さんや職人さんたちの丁寧な仕事によってさらに洗練されていく。この関係性も森島モデルに現れたと思います。

LDK:リビング(居間)ダイニング(食事場所)キッチン(台所)を示した略語。日本の伝統的な住宅は「和室」を中心とした間取りが一般的だったが、高度経済成長期の人口増加に伴い、アパートやマンションの需要が急増。その際にLDKといった西洋の生活様式が取り入れられるようになった。

吹き抜け:1階の天井および、2階の床を設けずに、上下の階がつながっている空間のこと。室内に広々とした開放感をもたらすだけではなく、日中は自然光だけで十分な明るさを確保することができる。日本建築における吹き抜けの歴史も古く、1400年前の寺院などでも活用され、建物内部に採光と通気を取り入れる環境的な役目を担っていた。

世代の暮らしに寄り添う、
新しいベーシック

大峯:設計する上で、お客さんの暮らしに寄り添える「編集性」も大切にしました。お客さんの年齢層はさまざまですが、例えば、これから子どもを持とうとしている30代のご夫婦なども多く、森島モデルではあえて最初のプランでは子ども部屋をがらんどうにしています。そこを自分の部屋としても、これからの子どもの部屋としても使える設計としました。

山下:森島モデルを皮切りに、お客さんの客層も徐々に変化してきました。シンプルながらに編集性のある家が好きな人からの依頼が集まってきていますね。森島モデルで道筋がきれいに拓けたので、YHCの大きな方向性が見えてきました。外観も特殊なことはしていないのですが、ごちゃごちゃと加飾せずとも、窓の形や配置だけで他の家と並んだときの雰囲気の違いは一目でわかる。そういった意味でも、森島モデルは鶴来という地元に新しいベーシックを生み出せた家だと思っています。もちろん今後、鶴来に限らず、さまざまな場所でもこの「新しいベーシック」という言葉を大切にしていきたいですね。

大峯:実際に街の中にあると、他の家と比べた森島モデルの雰囲気の違いがわかりますよね。

山下:本当そう思います。では次はデザインについてお話できればと思います。

大峯:よろしくお願いいたします。


大峯 竣平[デザイナー/二級建築士]

1990年石川県出身。金沢美術工芸大学 美術工芸学部環境デザイン専攻を卒業後、設計事務所や工務店(生物建築舎、株式会社済田工務店)勤務を経て、2018年より額村計画室、2020年にデザインオツへ改組。