設計について話そう
#3  細部から生みだす空間の役割
Talk with: 大峯俊平(DESIGN O-TSU)

山下工務店House Construction部(以下:YHC)の山下陽平が、森島モデルを設計したDESIGN O-TSU大峯竣平さんと「設計」についてお話しします。
前回のお話は「第2話 家の顔を考える」からお読みいただけます。


山下:大峯さんのプランと言えば、やはり1階と2階がシームレスにつながる吹き抜けが特徴的です。

吹き抜け:1階の天井と、2階の床を設けずに、上下の階がつながっている空間。

大峯:やっぱり気持ちの良い空間を作るためにも、吹き抜けは大切に考えました。森島モデルでは4畳半サイズの吹き抜けとしたのですが、空間としての見た目も綺麗で、光の入り方が気持ち良いんですよね。また、家中に暖気を回したりなどできるので、吹き抜けは最高の住宅設備だと思っています。吹き抜けが嫌いという方もいると思うんですけど、森島モデルを見て良さを感じてもらえると嬉しいです。

山下:吹き抜けが嫌いな理由に「寒そう」というイメージが強いですよね。特にこっちの北陸ではなおさら。そのため、森島モデルでは断熱性と気密性はかなり高めに確保しました。断熱等級も6くらいあるので、エアコンだけで家中が暖かくなります。逆に吹き抜けがないと暖気が上手いこと行き届かないんですよね。デザインだけが先走るのではなく、機能性をしっかりと担保しました。

断熱等級:家の断熱性を示したランク。等級が高いほど外気からの影響を受けにくく、省エネで住みやすい住宅であることを示す。

大峯:2階には、吹き抜けに面した壁に大きな開口部があるのですが、そこも空気の循環に一役買っています。目の前には南面の大きな窓がくる高さなので、開口部に腰を掛けて外の景色や光も楽しむこともできます。デザインありきではなく、しっかりと機能性に基づいたデザインというのが一番の強みですよね。

山下:この前大峯さんと手掛けた住宅では、細長い吹き抜けも設計しましたね。吹き抜けというと開放感があるイメージですが、ああいった縦に細い吹き抜けでも光が間接的に落ちてくる視覚的な良さと、上下の暖気を効率よく入れ替える住み心地の良さが両立できた気がします。

天井から考える
プライベート空間

山下:森島モデルでは開放感がありながらも、2階はプライベート空間としての落ち着きもあります。

大峯:他の家と比べて特徴的なのは、天井の高さです。一般的に、ほぼ全てのハウスメーカーは天井高2,500mmに設定しているのですが、森島モデルでは1階は2,400mm、2階は2,200mmにしています。2階の低さは最初物議を醸したんですけど(笑)それでも低くするからこそ、寝室などの空間にプライベート感のある落ち着きをもたらすことができました。寝るときに天井が高くある必要もないですし、1階と比べてメリハリがついたと思います。

山下:ちょっとした屋根裏部屋にいるような感覚が心地良いですよね。この天井の低さは外観にも効いていると思っていて、家全体のシルエットが低重心な形となりました。ノッポな見た目より、家としての安心感が生まれた気がします。

大峯:細かい話なのですが、2階を2,200mmにした理由はもう一つあります。前回「窓は既製品を使う」という話がありましたが、各部屋の扉も同じく既製品を使う想定で天井高を決めていきました。森島モデルでは高さ2,030mmの扉を使っているのですが、一般的な2,500mmの天井高だと約500mmの下り壁が扉の上に生まれますよね。それだと少し間延びして不格好になってしまうんです。かといって天井高を2,100mmなどあまりに低くしすぎても、下り壁が100mmだけとなり、設計ミスのような違和感を持たれてしまう。その結果、扉との相性として一番美しいと感じられる天井高が今回の2,200mmだったんです。

下り壁:天井から下のほうへ下がっている壁のことで、開放空間をさりげなく仕切る機能を持つ。

山下:各部屋に同じ高さの下り壁をつけたことで、統一感が生まれましたね。また、この下り壁のおかげで空間としての区切りもつきました。森島モデルは開放的でありながらも、プライベートとしての空間がしっかりと共存しています。

大峯:逆に閉塞的になりやすい階段部分は、抜けの良さを意識しました。階段は普通、分厚い腰壁がつけられるのですが、その壁をすべてなくして手すりだけをつけています。そうすることで階段も第2の吹き抜けのような開放感を得られることができました。ただ登るだけではなく、気持ちの良いひとつの空間になったと思います。

焚火のような、
周りを照らす空間づくり

山下:森島モデルの照明に関してもお聞かせください。

大峯:今後の家づくりのベースとして見据えた上で、シンプルなスクエア型のガラスブラケット照明を各所に採用しました。本来はアクリルでも成り立つのですが、ガラスならではの重厚感や触り心地、光の拡散具合がアクリルとは違って良い雰囲気が出るんですよね。

ブラケット照明:壁面に取り付けられている壁付照明器具。

山下:ブラケット照明に比べ、ダウンライトは比較的少なめですよね。

ダウンライト:天井に埋め込んで設置する小型照明。            

大峯:もちろんダウンライトも採用はしているのですが、ダウンライトの光は天井から真下に落ちてくるため、少し単調な印象になります。学校とかによくある蛍光灯も同じですが、明るくするためだけの光というか。例えば、キャンプの焚火がなぜ落ち着くのかを考えてみると、やっぱり周りを照らしてくれるからだと思うんです。ランプなどもそうですが、テントの中枢から全体を照らしてくれる、あの光の放射が綺麗だなと思って。ダウンライトは明るくしすぎるという点でも、あまり多用はしていないです。

山下:日本の家の少し悪い癖じゃないですけど、部屋を均一に明るくしたがる傾向がありますよね。海外では必要なところに電気を持ってくるという発想あるので、結構陰影のメリハリがあって雰囲気が良いんです。森島モデルではその雰囲気をうまく表現できたのではないかなと思っています。

大峯:ダウンライトと違って、ブラケット照明は横から光が降ってくるんで、階段の手すりの影が良い感じに落ちたりと、良い演出が照明によって仕上がりました。山下 外観だけではなく、室内も森島モデルならではのアイデンティティが生まれたと思います。振り返ってみると、森島モデルはYHCの考え方が細部まで行き渡った家だなとあらためて感じました。

余白のある家づくり

大峯:YHCのベースとなるデザインコードも森島モデルから生まれましたよね。

山下:実際、お客さんからも「あそこにもYHCの家建っていませんか?」とお声がけを頂くようになりました。もちろん建てる家は施主さんによってそれぞれ違う持ち味があるんですけど、窓の配置や外観から、YHCとしての名刺代わりのような家が森島モデルでできたのではないかと思っています。

大峯:元々、森島モデルを作る前は「こういうデザインでやっていこう」というゴールがあった訳ではなく、陽平さんと一緒に作りながらデザインコードが決まっていったのを覚えています。その後、施主さんによっては森島モデルとは結構異なるオーダーを頂くことも多々あるんですが、YHCとして家づくりをする際は、建物としての気持ちの良い「抜け感」は担保してあげたい気持ちは強くあります。

山下:吹き抜けや窓といったデザイン的な抜け感も意識しつつ、空間としての「編集性」も大切にするようになりました。将来子供が生まれて家族が増えていくとか、施主さんの人生設計も加味しながら作っていく「余白づくり」も、今のYHCの軸となっている気がします。

大峯:軸ができたことで、その想いをベースにしながらも最近では色んな家のバリエーションが増えてきましたよね。良い意味で予想できない展開性も面白いなと思います。

山下:YHCの家は相場に比べるととても価格帯も安く、若いお客さんも増えていきました。価格に関しては色んな方から驚かれるんですが、やっぱり窓や扉を特注ではなく、すべて既製品にできたことが大きいと思います。床材も無垢材などではなく既製品を使ったのですが、全然安っぽい感じもせず、むしろ家全体の雰囲気を整えてくれましたね。

大峯:普段、既製品を選ぶ時ってカタログと睨めっこする時間がかなり多いのですが、今回はあまりしなかった覚えがあって。陽平さんの選ぶものがデザイン的にもばっちり合っていました。

山下:既製品は価格が抑えられるというメリットはもちろん、既製品は性能がしっかりしているものも多く、かつメンテナンスがしやすいのが良いですね。やっぱり人が住み、長く使うものですから。その分、数ある既製品から丁寧に選び抜く姿勢はいつも心がけています。

住む人それぞれが
自分なりに楽しむ家へ

山下:その後、実際に森島モデルはすぐにご購入されました。施主さんは自分なりに生活を楽しまれるご夫婦で、「余白」をうまく使いこなしてくれています。

大峯:第1話でもお話しましたが、まさに「自分で選択して、自分なりに楽しむ」。そんなお客さんに住んで頂けましたよね。

山下:思い描いていたイメージ通りの方に住んで頂けました。空いているスペースを楽しみながら自由に使って頂いる印象です。靴や車など、持っているものもすごくこだわりが感じられてセンスが良いんですよね。これからも、たくさんの方々の人生をおおらかに受け入れる、そんな家づくりを大峯さんとともに作っていきたいと思います。

大峯:YHCの考える新たな家の在り方を、これからも一緒に考えていきましょう。

山下:大峯さん、本日はどうもありがとうございました。

大峯:ありがとうございました。


大峯 竣平[デザイナー/二級建築士]

1990年石川県出身。金沢美術工芸大学 美術工芸学部環境デザイン専攻を卒業後、設計事務所や工務店(生物建築舎、株式会社済田工務店)勤務を経て、2018年より額村計画室、2020年にデザインオツへ改組。